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『第3回イーハトーブ・プロジェクトin京都』に行ってきた! [催し物]

賢治は美声の持ち主だった、と何かで読んだことがあります。

「これはまさに賢治の声ではないか…」
朗々と会場に響き渡る竹崎利信さんの声に
幾度となくそう思ってしまいました。

プログラム最初の『私家版宮澤賢治幻想旅行記・抄』は
客席の後から竹崎さんが現れて始まりました。

遺書や『注文の多い料理店・序』、『春と修羅・序』、
バルコクバララゲ♪の応援歌、
なぜか涙が自然に流れてくるのをとめられません。

詩『丁丁丁丁丁』『眼にて云ふ』『そしてわたくしはまもなく死ぬのであろうか』

そうして呻くように「ナリタイ…ナリタイ…ナリタイ…」と。
これまでいろんな方の『雨ニモマケズ』の朗読を聴きましたが、
これほど賢治の魂と重なったものはありませんでした。
そうだ、賢治はこんな気持ちで小さな手帳に書いたに違いない…と。

 「ナァーンモデギナガッタ、ダーレモタスケラレナガッタ。
 ソウイウモノニワタシハナリテェ?
 インヤ、オレハマサニ、バカノメチャクチャノデキソコネー
 ・・・オレハタダノ、デクノボーダ。」

そうだ。
賢治はデクノボーだ。

 「賢治が遠くへ行った?
 いや、あの人から遠ざかっていたのは自分のほうではなかったのか。」

竹崎さんの賢治への旅が
私自身の旅と重なります。

賢治から来るはずのない手紙が来て。
ジョバンニの手の中の切符。

 「たとえ生まれ変わり、死にかわっても―」
賢治が残してくれた切符に書かれていた言葉は
 「ここより始まる」

私は震えるほど感動しました。
ああ、いつだって、どこだってそうだ。
「ここより始まる」!

私は私の切符をちゃんと握っているのだ。



『なめとこ山の熊』は竹崎さんの語りと友枝良平さんの揚琴。
お二人の息のあった舞台。
揚琴というのはこんな楽器→☆
竹崎さんが“天上の音”と賞賛されるように
不思議な美しい音色がして
深い森の木々に風が渡ってゆく音や
母熊子熊に降り注ぐ月の光の粉が目の前に見えるようでした。
そして小十郎が死んだ後には、
雪のカーテンがやってくるのが見えた…ような気がしました。

山の上で環になって平伏した熊たちの真ん中に
半分座ったように置かれた小十郎の死骸。
ラストシーンの情景を揚琴の音色のなかで浮かべ
賢治の描いたものの深さを思いました。

「たとえ生まれ変わり、死にかわっても―」
という先の言葉がよみがえります。

ともに生きて、ともに死んでいくこと。
私達はひとりだけれど、ひとりじゃない。
小十郎は熊であり、熊はまた小十郎である。
そしてかれらはそのことを知ってる。
ともに生きともに死ぬ、そのことを知っている。

現代社会の不幸は
人間がそのことを忘れ
世界とともに生きることを忘れたからではないのかなぁ。
そんなこともぼんやり感じていました。

賢治が描きたかったものに
なんとなくまた一歩近づけたような気がします。

あの会場に広がっていたのは
なめとこ山の景色。
そこにいたのは小十郎や熊の魂。
賢治はやっぱり、ちゃんと会場のどこかにいて見守っていた、
そんな気がしてなりません。


二つのプログラムの間にあった主催者・浜垣誠司さんのミニ講演は
それらにつながる内容でした。
賢治の感性や
「私」や「世界」というものを賢治がどう感じていたか、を
図解してわかりやすく話してくださいました。


ちょうど今読んでいる本には
賢治の世界のとらえ方や、
賢治は何をもとめて旅していたかを探るテーマで連載されていて
『私家版宮澤賢治幻想旅行記・抄』や浜垣さんのお話にも通じていて
不思議な符合を感じています。

第2回『能楽らいぶ 光の素足』もそうでしたが
今回も、心、というよりはしっかりと“魂”に刻まれたと感じます。


関係者のみなさま、お疲れ様でした。
そして素晴らしいものを有り難うございました。

またぜひ伺います。
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竹崎利信

ただただありがたく、御文に今までやって来たことへの励ましと、そして昨日は決して流してはならないと思った、涙をいただきました。ほんとうに、ありがとうございました。
けれどもまた「ここからはじまる」旅の繰り返しです。
どうかこれからも、良き旅の道連れに・・・・・
by 竹崎利信 (2012-03-05 20:51) 

signaless

こちらこそ、です。
人間、ときには間違ったり落ち込んだり。
でもそんなことを繰り返しながら、歩き続けていくのですよね。

魂で演じる竹崎さんのお姿を拝見して、
一歩ずつ大地を踏みしめて歩いてこられたのを感じました。
私もそのようであらねばと思います。

「カムパネルラはきっとどこかで歩いている。」
ジョバンニがそう思うことは、カムパネルラと一緒に行くことに
他ならないと思うのです。
有り難うございます。
by signaless (2012-03-05 21:27) 

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