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『荒地の恋』 [本]

ねじめ正一さんの小説『荒地の恋』を読み終えた。

事実をもと書かれたとはいえ、やはり小説、まるごと事実ではないと思うが、実在の詩人たちの人間模様を赤裸々に描いている。詩人たちのことを殆ど知らない私でも、一気に読んでしまうけれん味があった。

主人公は田村隆一、鮎川信夫らと『荒地』を創刊した北村太郎である。
正直、私は序盤の部分、親友・田村隆一の妻・明子と恋に落ち、家族を捨てるところは読んでいてとても辛く、この本を手に取ってしまったことを後悔もした。
身勝手なことをして、妻の心もプライドも踏みにじる。あげくに取り乱し執着するほうが悪者のような描き方。男の目線で書かれた部分に、強い憤りを覚えること数回。
何の落ち度もない妻を、地獄に突き落として許されるわけがない、と。
私のこの反応は、今の自分自身の精神状態も大いに関係はしているのだと自覚はするのであるが。
それでも。
明子が田村のもとに戻ったり、それでも「家族」のような気持ちで気にかけ面倒を見たり見られたり。
それに加えて若い恋人・阿子との愛欲。
後半は半ば呆れて、なぜかしら平常心で読み進む。
様々な人生模様。
親友たちの相次ぐ死、
友が死ぬまで隠し通したもの。
そして、余命3年の宣言を受け、死んでいく北村。

最後の最後で、なぜか私の個人的な深い悩みをあっけなくはじけ飛ばしたのは、
北村太郎の葬儀に現れた阿子に、彼の双子の弟が言った言葉と、
そして、彼女が隠していた「秘密」だった。

妻・治子はどう生きたのだろう。
でも、人生は一度きりなのだ。
結局は「やったもん勝ち」なんじゃないか。
惚れた晴れたで、修羅場をくぐってでも、やりたいことをやってしまった方が幸せ?
どうしようもない心の衝動を、押さえつけて犠牲になって、被害者意識で生きるよりもずっと幸せ?

なんだか悩んで恨んで殻に閉じこもって、うじうじしてきた一年余りが急に馬鹿らしくなってしまった。
(念のため言っておくけど、決して、自暴自棄になったり、好き勝手にして人を傷つけてもよいということではない。)
生きるって、こういうことなのかもしれない。
嫌な目に遭わされてもいいじゃないか。
ひとに迷惑をかけても仕方ないじゃないか。
裡に燃えるものを失って、亡霊のようになってしまっては、自分が一番ソンじゃないか。
幸せってなんだろう。
いいことも悪いことも、いっぱい抱えて、
最後に、ああ楽しかった、そう思って死んでいければ
それがいちばん幸せなのかもしれない。
そんなことを、最後のページを閉じるときに思った。

日曜日の午後、ひとりで買い物のついでに入ったカフェで読了したのだが、
外に出てみると、嵐のあとの青空に、雲が流れている。
そして風はもう、春の匂いがした。

私も、そろそろ冬眠から目覚めよう。



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