SSブログ

「九月が永遠に続けば」沼田まほかる [本]

息抜きに娯楽小説でも、と思ってこの本を手に取ったのですが。

とんでもありませんでした。

「九月が永遠に続けば」沼田まほかる(新潮文庫)

この作品は第5回(2004年) ホラーサスペンス大賞受賞を受賞していて
分類もサスペンスとなっているようですが
ひとつのジャンルには到底おさまりきらないような気がします。

驚くのはこれがデビュー作だということ。
素人の私から見ても、この人の筆力はただものではない感じ。

高校3年生の一人息子が突然行方不明になるところから事件が始まり、
入り組んだ人間関係とそれぞれの中に渦巻くものが絡み合って
物語が進んでいきます。
かなりショッキングな内容が含まれていて
とてもここに書く勇気は私にはありません。

しかし現実にはまず起こりえない事件にもかかわらず
登場人物すべてが妙にリアリティを持って迫ってきます。

冒頭から物語に引き込まれ
まるで自分が主人公佐知子になったように
夜更けにゴミを出しに行ったまま帰らない息子を
必死で探し続けていく。
佐知子だった私が次には息子の文彦の気持ちになり
得体の知れなかった血の繋がらない妹冬子になる。

いつしかそれぞれの人物がくっきりと、
内側も外側も輪郭を持って立っていることに気づきます。

とても現実にはありえないようなことの連続、
だからこその小説なのですが
読み終えてふと、
これらはもしかすると程度の違いはあれ
誰もが抱えているようなことかも知れないと思ったのです。
皆、表面上は何ごともないような顔をして
装って平穏に生活しています。
けれども、悲惨な記憶や耐え難い辛さなどには
蓋をして何もなかったことにして生きているのではないか、と。

平凡で幸せそうにしているけれど、
誰もが胸の奥深くに沈めているものはあるのかもしれません。

自分の中の深い深い闇の部分は正視ができない。
目を向けてしまえばその底なしの闇に引き込まれてしまう。
とても正気では生きていけない。

なかったことにして沈めているものが、
実はその人の人格をつくっているのではないだろうか。
本人が意識しようがしまいが、
立ち振る舞いや仕草のひとつひとつにも現れているのではないか。
そんな風に思えます。

本当は誰もが皆抱えている深い哀しみ。
しかしそうやって生きていくしかない。

そう思うと逆に、何があっても生きて行かなきゃ、とも思います。

この本の最後の2行。
そこにすべてが集約されているような気がします。
重い内容だからこそ、このなんでもない行為の先に救いが見えた気がしたのです。

nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。