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シンポジウムと『天使猫』Ⅱ [催し物]

もう一週間以上経ってしまいましたが、
前回の続きです。

先に観た知人・友人の評判もよく、
楽しみにしていた渡辺えりさんの『天使猫』


暗い舞台に波の音から始まる…。
一匹の猫が捜しているのは、どこかに埋まっているはずの妻の遺体。
最初の場面から、これはたいへんなものを見に来てしまったと思いました。

ストーリーなどあってない、
現実と幻想が入り交じり、
時空を行き来し、賢治の生涯と作品たちが交錯する、そして清六の生涯も重なる、
なにこれ、どここれ、誰がだれ、・・・あなたはだれ、わたしはだれ。
賢治は誰を捜しているの。
清六は誰を捜しているの。
・・・私はいったい誰を捜しているの・・・?

明るい賢治はそこにはいない、
苦悩する賢治、東北の暗い空の下、二つの三陸地震と津波に夾まれた生涯。
失踪した岩手山は、俺は何にもできなかったと言って泣く。
泣いていたのは賢治?いや、私?
津波にさらわれてしまったのはあなた。あなたはわたし。
津波にさらわれてしまったひとをいつまでも探すのはあなた。あなたはわたし。
いつまでも探すひとに心痛めるのはあなた、あなたはわたし

賢治のきれぎれのことばが舞い、突き刺さってくる。
賢治の血を吐くような苦しみが迫ってくる。


面白かった、とはとても言えない演劇。
私がもらったのは、えりさんの重い重い、想い。

忘れるなよ、東北を忘れるなよ、と
天使猫がささやく。

ホモイが受け取るのを拒んだ赤い玉、
しまいには賢治が受け取ったのね、と思ったのは間違い、
帰路についた時、私の中にしっかりとそれがあることに気付いて愕然とする。



波の音が今も聞こえる。
それは私の中で次第に大きくなっていく。
賢治が歩いた透明な軌道を目で追いながら
私はわたしの中の赤い玉のあるあたりを、そっと撫でてみる。

忘れない、忘れないよ、と。 

偶然にも昨日、フェイスブックに流れてきた動画。
押し寄せる波、瓦礫の山、屋根の上のバス、
泥に半分埋まった遺体、シートの端から覗く細い指、動かぬ幼子の足。


天使猫。
期待するとかしないとか、面白いかそうでないかなんていうものを
遥かに超えてしまう、お芝居でした。
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